わらしべ長者

むかし むかし あるところに 心の優しい一人の男がおりました。
ところがこの男 何をやってもうまくいきません。
朝から晩までせっせと真面目に働くのですが 暮らしは少しも楽になりません。
ある日 男は観音様にお参りにいきました。
「観音さま~ おらに運をつけてくんろ。一生のお願いだ~ どうか おらに運をつけてくんろ」
男は一生懸命 観音様にお祈りをしました。
夜になってもずーとお祈りをしていました。
そのうちに男は疲れて観音堂で眠ってしまいました。
「これ これ 男や。 起きなさい。」
寝ぼけて起き上った男の前に観音様がおりました。
そして 静かに男へ話しかけました。
「これから おまえはこの御堂をでるなり ころびます。
その時に 手につかんだものを大切にして 西の方角に進みなさい。
必ず 良いことがありますよ。」
そういうと 観音様は消えてしましました。
「夢かいな〜?」
男はそう思いながら 観音堂から出ていきました。
ところが それは夢ではありませんでした。
男は本当につまずいてころんと転んでしまいました。
そして 立ち上がると 男の手には一本のわらをつかんでおりました。
「ああ、なんでこんなものをつかんでしまったんじゃろう。」
と残念に思っていると 一匹のあぶが飛んできました。
男はあぶを捕まえ わらでしばっておきました。
「観音さまのお告げじゃ仕方なか。けんどもちっと ましのもんなら良かったんじゃが・・。
やっぱり おらには運がねえのかなあ。
じゃが 観音様のお告げじゃ 西に向かって歩いてみるべ。」
男は西に向かって歩き始めました。
歩いている途中 男は赤ん坊をおんぶしているおばあさんに出会いました。
おばあさんは泣いている赤ん坊をあやしていました。
「どれどれ おらが泣きやましてやんべ」
「いないいないばあー」
しかし 男があやせばあやすほど 赤ん坊は激しく泣きます。
「これはどうじゃ。」
男は さっきのあぶをつけたわらを赤ん坊の目の前で振りました。
すると 赤ん坊は突然泣きやみ きゃっきゃっと笑い出しました。
「そうか これが気にいったか。」
男はあぶをつけたままのわらを赤ちゃんの手にもたせました。
赤ん坊が泣きやんだので おばあさんはとても喜んでいます。
「ほんに、助かりました。なあんもないが これを持っていって下され。」
   そう言って みかんを3つくれました。
男は みかんを受け取ると 観音様のお告げの通り 西の方角めざして 歩き始めました。
途中 男がおなかがすいたので みかんを食べようとしたときのことです。
「水を分けてくださらんか。」
うしろを振り向くと おじいさんが立っています。
「お嬢様の急に具合が悪くなって 水をほしがっています。どうか 水をわけて下さらんか。」
「それは困ったことじゃ。じゃが おらも水は持ってねえ・・。
そうじゃ このみかんをあげたらどうじゃろう。」
男は本当は自分が食べたかったのですが みかんを全部おじいさんに渡しました。
おじいさんはたいそう喜んで さっそく娘にみかんを食べさせました。
みかんを食べると 娘は元気になり そしてお礼にと上等な絹の反物を男に差し出しました。
「本当にありがとうございました。おかげで助かりました。
これはお礼の気持ちです。お受け取り下さい。」
男は反物を受け取ると 観音様のお告げの通り 再び西へと歩き始めました。
「わら1本がみかんになって みかんが絹の反物のなった。」
なんだか 男は楽しくなってきました。
「おい そこの男。」
突然 木の陰からさむらいが声をかけてきました。
「どうじゃ この馬とおまえの持っている反物と取り換えんか。」
「この馬 倒れているでねえか。死んでんじゃねえのか。」
「ちょっと疲れて休んでおるだけだ。つべこべ言わず その反物をよこせ。」
さむらいは男から反物を取ろうとしました。
「待ってくれ。」
男は言いましたが さむらいは無理やり反物を持って行ってしまいました。
「やっぱ おら 運がねえ。」
男はがっかりしてしまいました。
ただ もともと気がやさしい男のこと 弱っている馬を見捨てることができません。
馬に水をあげたり 体をさすったり 介抱をしはじめました。
すると 馬はみるみるうちに元気になり 起き上がることができるようになりました。
そして 男は馬を連れて 観音様のお告げどおり 西に向かって 再び歩き始めました。
しばらく歩いていくと 大きな城下町に着きました。
男が長者様のお屋敷の前を歩いていると お屋敷の中から男を呼ぶ声が聞こえてきました。
その声は長者様でした。
「その馬はおまえの馬か。」
「そうじゃが。」
「その馬は国じゅう探しても見当たらぬほど良い馬じゃ。
どうじゃ わしに売ってくれんか。値段はいくらでもいいぞ。五百両 いいや 千両だそう。」
「せ、せ、千両」
そう言うと 男はびっくりしてその場に倒れてしまいました。
「おい おい しっかりせい。だれか水を持ってまいれ。水じゃ水。」
長者のあわてる声に 長者の娘が水を持ってきました。
娘は男を見て びっくりしました。
その男は 娘が旅の途中で みかんをもらった男でした。
「この方はあの時の・・・」
娘は父親に旅での出来事を話しました。
しばらくして 男は気がつきました。
「あんたはあの時の娘さんか?」
「旅の途中 娘を助けて頂いたこと 娘から聞きました。
何かお礼をしたいんじゃが・・・何かほしいものがないか。」
「いきなりそげんなこと言われても・・」
男は困ってしまいました。
気の優しい男の困った様子を見て 長者様は男の顔を覗き込むようにして、言いました。
「のう おまえさん 娘の婿になってこの家の跡取りになってくれんか。」
男はびっくりして 娘のほうを見ました。
娘ははずかしそうにうなずいています。
「なんと 観音様のお告げどおりじゃ。」
こうして 男は娘と結婚し このお屋敷の跡取りになりました。
けれども この男 お金持ちになってからも変わらず一生懸命働きましたので
 ますます大金持ちになり わら一本を次々と取り換えて最後に長者になったことから
男は「わらしべ長者」と呼ばれて 人々から慕われたそうです。