うば捨て山

むかしむかし わがままなお殿様がいました。
お殿様はお年寄りが大嫌いでした。
ある日のことです。
家来に国中に立て札を立てるようおふれをだしました。
立て札には「60歳になった年寄りは 男も女も山に捨てるべし。
従わない家は 家の物全員厳しい刑に処す。」とおそろしいことが書いてありました。
誰もが お殿様に逆らうのが怖くて 命令通りにしました。
ある村に とても 母親想いの息子がいました。
2人は仲良く 暮らしておりましたが 母親はとうとう60歳になってしまいました。
「息子よ わしもいよいよ60じゃ。山へ捨てに行っておくれ。」
「おっかあ おらにはそんなことは できん。」
「隣のおじいもおばあも 山に行った。次はわしの番じゃ。」
一日一日延ばしてきましたが とうとう 明日は山へ行かなくてはなりません。
 母親は悲しんでいる息子に言いました。
「お殿さんが決めたことじゃから 仕方なか。わしは仏様のところへ行くんじゃけぇ。
そんなに 悲しむことはねえぞ。」
母親のやさしい言葉に 息子はますます悲しくなってきます。
夜が明けて朝になりました。
「山さ行くのは 早い方がええ はよう用意せんか」
母親にせかされて 息子はしぶしぶ 母親を背中に背負うと山に登りました。
山はだんだん深くなり 道も細くなってきました。
ポキン  ポキン・・・・・ポキン  ポキン・・・・ポキン
さっきから 小さな音がします。
息子は なんだろうと思って不思議に思って振り向いてみると背中の母親が 
木の枝を折っては道に落とし また 折っては道に落としています。
「おっかあ 何で木の枝なんか折ってるだ?」
「これか?お前が山を降りるとき 帰り道に迷わんよう 目印をつけとるだ。」
「これで お前が無事に家に帰れるけぇ 安心だ。」
「こんなときまで  おらのことを・・・」
息子の目から涙がボロボロ出てきました。
「お前には ほんに世話になったのう。ここでもうええ。 降ろしてくれ。
わしのことは気にせんでええから くろうなるまでに おまえ はよう家に帰れ。」
母親は 息子の背中から降りると 山の奥へ1人で歩いていきました。
「おらには できねえ」
と そうつぶやくと とっさに母親を再び背負いました。
「おっかあ 帰ろ!家さ 帰るんだ!」
「そんなことをしたら 殿様からおとがめが・・・」
「いいんだ!どんなことがあっても おら おっかあを捨てたりしねえ」
息子は 母親を背負って山を下り 家に帰りました。
それから 村の人たちに知られないように母親を裏の納戸に隠しました。
そして 毎日 近所の人に見つからないよう 3度のご飯を運んで
母親の世話をしておりました。
こうして 何日が過ぎていきました。
ある日 隣のお殿様が この国のお殿様に無理難題を出してきました。
それができなければ すぐにこの国へ攻めてくるというのです。
お城中の者が集まり 知恵を出し合いましたが 答えが見つかりません。
困ったお殿様は 国中に立て札を立て 村の人たちの知恵を求めることにしました。
立て札には 「灰で縄をなってきた者に 褒美をとらせる」と書いてありました。
いくさになっては大変だと 村中の人が集まり 知恵を出し合いましたが 
答えは見つかりませんでした。
息子もあれこれ考えてみましたが わかりません。
そこで 母親に尋ねることにしました。
「なあに そんなのわけないこと 固く縄をなってそれを よく塩水でしめらせて 
乾かしてから 戸板の上で燃やせば ええことじゃ。」
と母親が 簡単に答えてくれました。
母親の言う通りにやってみると ちゃんと灰の縄ができました。
息子はすぐにお殿様に持っていきました。
お殿様はたいそう喜び 息子にたくさんの褒美をくれました。
ところが しばらくすると 隣のお殿様がまた難題を出してきました。
お城中の者が集まり 知恵を出し合いましたが 答えが見つかりません。
再び お殿様は国中に立て札を立てて 村の人たちの知恵を求めました。
立て札には「ホラ貝に糸を通してきた者に褒美をとらせる」と書いてありました。
村中の人が集まって 知恵を出し合いましたが 答えは見つかりませんでした。
息子は また母親に尋ねることにしました。
「そんなこと わけないことじゃ。糸の先に飯粒をつけて蟻に食べさせて
  ホラ貝の出口に蜂蜜をつけてから 蟻を入口から入れてやるんじゃ。
そうすると 蟻は蜂蜜の匂いをかいで 出口へいくんで 糸さ通るさ。」
母親の言う通りにやってみると ちゃんと糸を通したホラ貝が出来ました。 
息子はすぐにお殿様に持っていきました。
お殿様は 今度もたいそう喜び 前よりもたくさんの褒美をくれました。
隣のお殿様は悔しくてたまりません。
今度は 今までで一番難しい難題を出してきました。
お城中の者が集まり 知恵を出し合いましたが 答えが見つかりません。
あんまりにも難しいので お殿様は 今度こそはだめかもしれないと思いました。
そして 国中に立て札をたてて 村の人たちの知恵を求めました。
立て札には 「打たずに鳴る太鼓を作った者に褒美をとらせる。」と書いてありました。
村中の人が集まり 知恵を出し合いましたが 答えは見つかりませんでした。
息子は また母親に尋ねることにしました。
母親は しばらく考え込んでいましたが 
「太鼓の皮をはがして 中に蜂を入れて また皮をはってみい。
そしたら 蜂が暴れて 皮にあたって 勝手に ぽんぽん鳴るだろうさ」
母親に言われた通りにやってみると ちゃんと打たずに鳴る太鼓ができました。
息子はすぐにお殿様に持っていきました。
お殿様は たいそう喜び 今までで1番たくさんの褒美をくれました。
結局 隣のお殿様はこの国を攻めることをあきらめました。
それを知ったお殿様は大喜びです。
さっそく 息子をお城に呼んで上機嫌で言いました。
「若者よ お前はほんとにいい知恵を持っている。
お前のほしいものはなんじゃ。なんでも望みをかなえてやるぞ」
息子はしばらく考えていましたが やがて おそるおそる言いました。
「おそれながら お殿様。今までの知恵は私が考えたものではねえです。
実は・・・おっかあに教えてもらったものなんじゃ。・・・
おらはおっかあの知恵を借りただけ・・おらが考えたものではねえです。
・・・・おらはおっかあを捨てることができんかった。
お殿さんのおふれをやぶってしもうただ。
堪忍してくだせい。どうか おっかあを助けてくだせい。
おっかあを堪忍してくださせい。
褒美はいらねえから・・・ぜーんぶ返すから。
お殿様 お願いしますだ。
・・・おら おっかあと 前のように一緒に仲よう暮したいだけなんじゃ・・・。
褒美はいらんから・・・お願いしますだあ。」
息子は 泣きながら お殿様に言いました。
息子の話を聞いて しばらくお殿様は黙っていました。
そして 静かに言いました。
「そうだったのか。・・・年寄りがこんなに知恵者とは・・・
わしは こんなに役に立つ人間を今まで粗末にしてきたのか・・・
年寄りの知恵がなかったら この国は滅ぼされていたかもしれん。
わしはまちがっていた。おまえのおかげじゃ よくわかった」
お殿様は 深く反省し 今度は「年をとって働けなくなっても年寄りを大事にするように」
と国中におふれをだしました。
それから 国中の者 みんなが仲良く幸せに暮らせたということです。