大きな運と小さな運

むかし むかし ある山奥のほら穴に「ぐひんさん」が住んでいました。
「ぐひんさん」とは天狗のことです。
このぐひんさんのうらないは とてもよく当たると村中みんなの評判でした。
ある時、この村の木兵衛と太郎兵衛のところに もうすぐ子供が生まれることになりました。
そこで 二人は はるばるぐひんさんを訪ねて
生まれてくる子供の運をうらなってもらうことにしました。
「ぐひんさん わしらの子供の運をうらなってくれんか?」
ぐひんさんは大きな声で 呪文を唱え始めました。
「オン! オン! 山の神 地の神 天の神 木兵衛と太郎兵衛の子のぶにをお教えたまえーーー」
呪文が終わっても ぐひんさんは 目を閉じたまま動きませんでした。
そして なんやらぶつぶつ言ったかと思うと やがて ゆっくりと言いました。
「神様の仰せられるには・・・木兵衛、お前のところには 竹3本の ぶにの子が生まれるそうだ。」
「た、竹3本のぶに?」
木兵衛は不思議そうに聞き返しました。
「そうじゃあ。人は生まれながらに備わった運命がある。それ すなわち、ぶにじゃ。」
「そんなら おらの子は たった竹3本しか備わらんちゅうのか?」
木兵衛はがっかりしてしまいました。
ぐひんさんは 今度は太郎兵衛に言いました。
「神様の仰せられるには・・・太郎兵衛、お前のところには 長者のぶにの子が生まれるそうだ。
子は長者になるさだめじゃあ。」
「はあ?長者・・・貧乏なおらの子が長者にねえ。」
ぐひんさんのうらないを聞いて 二人は山道を帰っていきました。
それから しばらくして二人の家に子供が生まれました。
「たまのような男の子じゃ」と木兵衛は大喜びです。
太郎兵衛も「うちは女の子じゃ。かわいいのう」
どちらも 元気な子で 二人は手を取り合って喜びました。
木兵衛の子供は「吾作」太郎兵衛の子供は「おかよ」と名付けられ
二人は スクスクと大きく育ちました。
ある日のこと 木兵衛と太郎兵衛がいつものように畑仕事をしていると
吾作とおかよが にぎりめしを作って持ってきました。
「おっとう 昼飯じゃあー。」
おかよは大きな声で呼びかけました。
「みんなで一緒に食べようよー」
「おうおう そうすべえ。みんなで一緒に食うとしよう。」
いいお天気です。
あぜ道に並んで 4人揃って にぎり飯を食べました。
「いただきまあす。」
「うまいのう。ありがたいこっちゃ」
むしゃむしゃ・・・ガチン!
木兵衛がかぶりついたにぎりめしに 小さな石が入っていたようです。
「なんや 石なんぞ入れてしもうて・・・」
木兵衛は怒って ご飯粒ごと石を吐き出しました。
「ペッ! ペッ! ペッ! 」
すると 親の木兵衛の真似をして 子供の吾作も
「ペッ! ペッ! ペッ! 」とご飯粒を吐き出しました。
「ああ、もったいないことをして 石だけ選んで吐き出したらよかろうに・・」
そう言って 太郎兵衛は木兵衛が吐き出した石に付いているご飯粒を拾い始めました。
それを見ていた木兵衛は 笑いながら言いました。
「石だけ選んで食うなんて ケチくさいわい。おら そんなケチくさいことは大きらいじゃ。
太郎兵衛どんは よくよくの貧乏性じゃのう。アハハハハ・・」
親の木兵衛が笑うのを見て 子供の吾作も大笑いしています。
「そうは言ってもなあ。おらはどうももったいないことができん性分でなあ。
なあ おかよ。おかよもそう思うじゃろ?」
太郎兵衛は ご飯粒を拾いながらおかよに言いました。
「ほんと もったいないねえ・・」
おかよも太郎兵衛の真似をして ご飯粒を拾いました。
 それから 何年か過ぎ 吾作もおかよも大きくなりました。
吾作は町へ おかよは 隣村へ働きに出ることになりました。
町に出た吾作は 竹屋に奉公して 竹かごを編むことや 輪替えの仕事を覚え
一人前の竹職人として 村へ帰ってきました。
吾作を見て 父親の木兵衛はうれしそうに言いました。
「よしよし そんだけ竹職人の技術を身につけたら立派なもんや。
ぐひんさんには 竹3本と言われたが そのうち竹3本どころか
竹100本 頑張れば 竹1000本の大金持ちになれるわい。
こりゃあ 将来が楽しみだわい。うひひひひ・・」
こうして 吾作は村々を回って 輪替えの仕事をするようになりました。
でも 毎日毎日 輪替えの仕事をしても お金は思うようにたまりません。
「あーー輪替えというのはつまらん仕事じゃなあ。」
吾作はだんだん仕事が面白くなくなってきました。
ある日のこと 隣村まで 足をのばした吾作は長者さまの家で呼び止められました。
「輪替えやさーーん。おけの輪替えをお願いします。」
お手伝いの娘が 壊れかけたおけを持って お屋敷から出てきました。
「へーい。ありがとうございます。」
でも そのおけがあんまりにも使い込んだものだったので
吾作は輪替えをしながら 娘に言いました。
「ずいぶんと使い込んだおけじゃな。
長者さまなら輪替えなんぞせんと新しいおけを買ったほうがええのにのう」
「はい。以前はそうでしたが 新しい若奥様が来られてから
使えるものは直して使うようになったんです。
若奥様が来られてから お屋敷はずいぶんと 大きくなりましたよ。」
「へえーーそんなもんかいなあ。わしはけちくさいことがどうも嫌いで・・」
そこへ 長者様の奥様が通りかかりました。
奥様は吾作の姿を見て びっくりしました。
「あれえ 吾作ちゃんやないの?ほら あたし!小さいころによく遊んだ となりの・・・」
吾作も奥様の顔を見てびっくり。
「ありゃあ おかよちゃんでねえか。ここの奥様になった・・なられたのでございますか?」
「え・ええ・・あ、そうだ あとでにぎり飯 こさえたげるよって待っとってな!」
そういって お屋敷に入っていくおかよを吾作はぼーとみておりました。
おかよの方は ひさしぶりに吾作に会えてうれしくてたまりません。
長者様の嫁として何不自由なく暮らしているおかよは
自分の幸せを吾作にも分けてあげたいと思いました。
台所に行くと さっそく握り飯をつくり始めました。
そして 握り飯の中に1枚ずつ小判を入れました。
その小判は おかよが何年もかかってようやくためた小判でした。
長者様のお屋敷の仕事がすんだのは お昼をだいぶ過ぎたころでした。
はらぺこの吾作は 河岸へ行って おかよからもらった握り飯を食べることにしました。
「こりゃーうまそうじゃ。さすがは長者さんちの米はつやが違うわい」
と握り飯を手にとり パクリ。
カチン!歯に固いものがあたりました。
「ペッ!なんや えらい大きな石が入っとるんやないか」
吾作は握り飯を川の中に吐き出すと 二つ目の握り飯にかじり付いた。
カチン!
「これもや。ペッ 」
三つ目も カチン!
「これもや。ペッ  ペッ」
四つ目も 五つ目も、・・・・
「なんじゃあ この握り飯は?どれもこれもみんな石がはいっとるんやないか」
そして 最後のひとつの握り飯もやはり 食べると カチンときました。
吾作はこれも川に吐き捨てようとして ふとその握り飯を割ってみました。
「待てよ。 長者さんの家の飯にゃ どんな石がはいっとるんじゃ?」
「やや これは・・・?」
握り飯の中からでてきたのは なんと小判でした。
「し、しもうた。まえに入っていたのも 小判じゃったんだ。」
せっかく おかよの心の込めた 吾作への贈り物は 深い川の底に沈んでしまいました。
その話を聞いた父親の木兵衛は吾作に怒りました。
「なんで はじめにカチンと来た時 中を確かめなかったんや。
そうすりゃ 小判が6枚も手に入ったのに・・」
「けど 石だけ選んで吐き出すなんて そんなケチくさいこと おっとうはきらいじゃろ。
やっぱり おらには 運がないんや。」
その言葉を聞いて 木兵衛はぐひんさんの言葉を思い出しました。
「そうか おかよは長者様の嫁になったし、ぐひんさんの言うとおり
やっぱり 竹3本のぐにしかないもんは それだけのもんしかなれんということか・・」
木兵衛が がっくりしていると どこからともなくぐひんさんがあらわれて 言いました。
「木兵衛よ それは違うぞ。おかよが長者の嫁になれたのは こまごまとよう気がついて 
物を大切にするよいおなごだったからじゃ。
いくら ええぶにを持っていても それを生かせん者もおる。
反対に小さなぶにしかなくても おおきな運をつかむ者もおる。
ぶにとは努力次第で招き寄せることができるものなのじゃ。
そう どうにでもなるものなのじゃ。
長者になっても物を大切にするおかよを見習えば お前達にも運がつかめるじゃろう。
心がけひとつじゃぞ 木兵衛・・・」
それからというもの 木兵衛と吾作は物を大切にするようになり
竹千本の山をもつ長者様になったそうです。