ねずみのよめいり

むかし むかし あるところに ねずみの名主どんがおった。
この夫婦には なかなか 子宝に恵まれなかったが ある時 女の子が生まれたそうな。
名主どん夫婦はそれはそれは大喜び。
村のみんなをよんで ご馳走やお酒をたんとふるまった。
そして 名主どん夫婦は この一人娘をたいそう可愛がって 大切に大切に育てた。
娘が年頃になった頃 方々の村から いれかわりたちかわり たくさんの若者がたずねてきて
「どうか 娘さんをお嫁さんに下さい。」
と名主どんに お願いしたが 名主どんは だれがきても いっこうに首をたてにふらん。
名主どんは
「あの子には世界で一番偉いお婿さんを見つけて 世界で一番幸せになってもらいたい。」
と思っていたそうな。
「世界で一番えらいお婿さん・・・いったいそれは誰ですか。」
お母さんがたずねました。
「そうだなあ・・・」
お父さんは ひげをぴくぴくしながら考えると
「この世で一番偉くてりっぱな相手といったら それは お日様にほかおるまい。
わしがお日様に会って話してこよう。」
名主どんは お日様をおいかけて 西へ西へと急いだ。
「おーい。お日様。 待ってくれえ。」
「ねずみの名主どん。何かごようですか。」
お日様は立ち止まってくれたが 名主どんは まぶしくて目があけられん。
それでも 頑張って 
「世界で一番偉いお日様。どうか 娘と結婚して下さい。」
名主どんがそう言うと お日様はびっくりして 言いました。
「いやいや ねずみの名主どん。わたしは世界で一番偉くはありませんよ。」
「でも お日様より偉いかたなどいないでしょう・・」
と名主どんが聞いたときです。
もくもくと流れてきた雲が広がって お日様をすっぽりかくしてしまった。
「ほうら 私はいつも雲さんにはかなわないないんですよ。」
雲の隙間から お日様が言いました。
そこで 名主どんは雲さんを呼びとめ 娘の話をした。
「お日様より偉い雲さん。世界で一番偉い雲さん。どうか 娘と結婚して下さい。」
名主どんがそう言うと 雲さんは びっくりして言いました。
「せっかくだが 私は世界で一番偉くはありませんよ。」
「でも 雲さんより偉い方などいないでしょう。」
そう名主どんが聞いたとき
風さんがきて 雲さんを一気に吹き飛ばしてしまった。
「ほうらね。私は風さんにはかなわないんですよ。」
雲さんはそう言いながら 遠くのほうへ行ってしまった。
名主どんは 今度は 風さんに娘のはなしをした。
「お日様より雲さんより偉い風さん。世界で一番偉い風さん。
どうか娘と結婚してください。」
名主どんがそう言うと 風さんはびっくりして言いました。
「いやいや 私は世界で一番偉くはありませんよ。」
「でも 風さんより偉い方などいないでしょう。」
そう名主どんが 聞いたとき
風さんは 大きな土蔵の壁に ぶつかって跳ね返されました。
「ほうらね。いくら力いっぱい吹いてもびくともしない。
わたしはいつも壁さんにはかなわないんですよ。」
風は 疲れた様子で言いました。
「ええと それでは お日様より雲さんより風さんより偉い壁さん。
世界で一番偉い壁さん。どうか 娘と結婚してください。」
名主どんがそう言うと 壁さんはびっくりして言いました。
「いやいや ねずみの名主どん 私は世界で一番偉くありませんよ。」
「でも 壁さんより偉い方などいないでしょう。」
そう名主どんが聞いたとき
「あ あいたたた・・」
壁さんは 急に顔をしかめました。
名主どんがびっくりしていると 壁の中からがりがりと音がした。
「ちゅう ちゅう ちゅう」
かりかり かりかり・・
壁に穴があいて いたずらこねずみたちが 次々に出てきました。
「ほうらね。私はいつも あなた方 ねずみさんにはかなわないんですよ。」
ぽっかり 穴のあいた壁さんが言いました。
「お日様より雲さんより風さんより壁さんより強くて偉いのは ねずみだったのか・・」
名主どんは 家に帰って 娘に言った。
「世界で一番偉いのは ねずみだよ。
なにしろ お日様より雲さんより風さんより壁さんより強いんだ。」
それを聞いたお母さんは にこにこして言いました。
「それは良かった。それでは ずっと仲良しのお隣の息子さんと 結婚してはどうかしら。」
娘はうれしそうに はずかしそうに
「はい。」と言いました。
娘と隣の息子さんとの結婚式は お日様と雲と風と壁に見守られて幸せな結婚式でした。
二人はずっと 仲良く幸せに暮らしましたとさ。めでたし めでたし。